12.13.2008

情景を、えがく。

あなたはなぜ、読書が好きなのですか?
そう問われたら、なんて答えるだろう。
わたしの場合は、
「頭の中いっぱいに本の中の世界が広がって、その世界へ旅できるから」
とまずは答える。

『アフリカの日々』という本がある。
この話を読んでいた日々は、読むことが本当に待ち遠しかった。
なぜって、本を開いた瞬間から、アフリカのサファリへ旅できるから。
毎朝の都バス通勤は、サファリパークへの旅。
「うかつに顔や手を出しますと、ライオンのエサとなり危険です。」
わたしの耳に届くのは、そんなバスのアナウンス。

作者のディネセンは、デンマーク生まれで、
1914年に現ケニアの土地でコーヒー農園をはじめた女性。
『アフリカの日々』は、物語のようでいて、彼女自身のアフリカでの日々の綴りだ。
彼女は、とても愛情深い人だと思う。それは、言葉の節々でそう感じる。
たとえば、キユク族の人々のことをこう表する。

 白人はほとんどの人たちが不測の事態や運命の打撃にそなえて
 安全を確保しようとするが、キユク族はちがう。
 黒人は運命に親しみ、常に運命の手にみずからをゆだねる。
                  (『アフリカの日々』より抜粋)

原住民に対して、愛情と尊敬の念を日頃から抱いていたことが窺える言葉。
そして、彼女のハイライトは、情景の描写の素晴らしさにつきると思う。
作家・池澤夏樹氏は、この本の描写について、キリンが登場するくだりを
すばらしいと評していたが、
同様にわたしは象の描写にクラッときてしまった。

 象たちは、世界の果てに約束があるといった様子で、
 ゆっくりと、決然たる歩調で進んでいった。
                  (『アフリカの日々』より抜粋)
 
こんな情景を、えがけるなんて。
ケニアへの旅路が、この本を開けば、見えてくる。



『アフリカの日々』イサク・ディネセン/横山貞子・訳/河出書房新社
池澤夏樹 編集による世界文学全集シリーズ