そう問われたら、なんて答えるだろう。
わたしの場合は、
「頭の中いっぱいに本の中の世界が広がって、その世界へ旅できるから」
とまずは答える。
『アフリカの日々』という本がある。
この話を読んでいた日々は、読むことが本当に待ち遠しかった。
なぜって、本を開いた瞬間から、アフリカのサファリへ旅できるから。
毎朝の都バス通勤は、サファリパークへの旅。
「うかつに顔や手を出しますと、ライオンのエサとなり危険です。」
わたしの耳に届くのは、そんなバスのアナウンス。
作者のディネセンは、デンマーク生まれで、
1914年に現ケニアの土地でコーヒー農園をはじめた女性。
『アフリカの日々』は、物語のようでいて、彼女自身のアフリカでの日々の綴りだ。
彼女は、とても愛情深い人だと思う。それは、言葉の節々でそう感じる。
たとえば、キユク族の人々のことをこう表する。
白人はほとんどの人たちが不測の事態や運命の打撃にそなえて
安全を確保しようとするが、キユク族はちがう。
黒人は運命に親しみ、常に運命の手にみずからをゆだねる。
(『アフリカの日々』より抜粋)
(『アフリカの日々』より抜粋)
原住民に対して、愛情と尊敬の念を日頃から抱いていたことが窺える言葉。
そして、彼女のハイライトは、情景の描写の素晴らしさにつきると思う。
作家・池澤夏樹氏は、この本の描写について、キリンが登場するくだりを
すばらしいと評していたが、
同様にわたしは象の描写にクラッときてしまった。
象たちは、世界の果てに約束があるといった様子で、
ゆっくりと、決然たる歩調で進んでいった。
(『アフリカの日々』より抜粋)
(『アフリカの日々』より抜粋)
こんな情景を、えがけるなんて。
ケニアへの旅路が、この本を開けば、見えてくる。
『アフリカの日々』イサク・ディネセン/横山貞子・訳/河出書房新社
池澤夏樹 編集による世界文学全集シリーズ