1.16.2009

海に還るヒト

わたしには夢がある。
イルカと泳ぐこと、だ。
とはいえ、ダイビング経験はまだない。
ちゃんと心構えができてから、と思っている。
ホテルのプライベートビーチやアトラクションではなく、
本物の海でイルカに出逢いたいのだ。
数年前、ハワイ島で知り合った人に
「妊娠した時はぜひこの島でイルカと泳いでください」と
言われた。
なぜなら、イルカはお腹の中の赤ちゃんを歓迎してくれるから、と。
彼らには赤ちゃんが分かるらしく、お腹の周りに集まるという。
青い世界で、イルカの眼差しに見つめられる—。
どんな気持ちになるのだろう。
いつか叶えたい、大切な夢。

イルカと共に生きてきた偉人がいる。
ジャック・マイヨール。
彼は、1976年に偉業を成し遂げたヒト。
フリーダイビングで、つまり素潜りで、
水深100mの世界へ旅に出たのだ。
その旅時間、3分強。
カップラーメンが出来上がるまでの間、ある曲を聴いている間、
その間にジャックは未知なるグランブルーへの旅に出た。
言葉で言うと、ふーんで終わりそうだが、
50mの地点で太陽の明かりは届かなくなる。
空気の入った缶は、つぶされてしまうのだ。
人間の身体も同じこと。とてつもない水圧に押しつぶされる。
水温10℃の深海で、あと一歩のところで胸はつぶされてしまう。
ジャックは、49歳でその限界に挑戦した。

彼がイルカに魅せられたのは、幼少時代。
再び恋したのは、30歳になってからだった。
イルカの眼差しに一目惚れをし、調教師となり、
あるイルカと心を通じ合わせるようになる。
晩年になっても水族館で飼われたイルカたちの
保養所設立のために動いていたという。

そのジャックが、2001年自ら死を選んだ。
理由は明かされていないし、分からない。
ただ、彼には30年前に忘れられない深い傷が刻まれていた。
愛する人を、スーパーでの銃乱射事件で突如失ったのだ。
栗色の髪のドイツ人の彼女は、とても気高く静かに微笑んでいる人だったという。
二人で海に潜る姿は、まるで二頭のイルカが優雅に戯れているような。

人間界とはかけ離れたグランブルーの世界へ旅し、
イルカと共存してきたヒト。
「イルカになりたい—」
そう夢見た偉大なヒトは、海に還れただろうか。


わたしの宝物「in this time」シリーズ砂時計。
ジャックがグランブルーの世界へ旅をした
時間を教えてくれる。

いつも素晴らしいカタチを見せてくれる