1.01.2009

いつかのCountdown in NY.

この輝きは、夜空に果てしなく続いているのだろうか。
それとも、夜空から星たちが舞い降りたのだろうか。
聖なる灯りが、目の前でキラキラと輝き、
優しい微笑みをこちらへ向けている。
胸の鼓動が高まり、自然とわたしにも笑みがこぼれる。
それは、NYでのカウントダウンが近づいたある夜のこと。

NYの冬は、街の熱気とは裏腹にとても寒い。あの夜も例外ではなかった。
これ以上暖かくはできないだろう重装備で、街へ繰り出す。
目指すは、NYの心臓部である5番街。
この寒さの中街へ飛び出したのには、もちろん意味があった。
体を凍らせてでも、一度でいいから対面したかったのだ。
ロックフェラー・センターのクリスマスツリーと。

5番街は、昼間以上に多くの人で溢れかえっている。
ほとんどの人は、わたしと同じ目的で来ているのだろう。同じ方向へ向かう。
ふと、前方からほのかにざわめきが起こる。
歩いていた足を止め、顔を上げる。
その瞬間、寒くて震えていた体が止まった。
わたしの目の前に、ロックフェラーのクリスマスツリーが飛び込んできたのだ。
この街の、この日の主役は自分だと主張しているかのように、
堂々と構えるクリスマスツリーが。

人というのは、本当に感動すると周りがかすんでしまう。
このときも、周りは人で溢れて賑やかなはずなのに、その瞬間は約25mの
ツリーとわたししか存在していなかった。
ツリーしか目に入らなかった。
寒くてこわばっていた体の芯が、じんわりと溶けていく。
こんなに感動したのは、いつ以来だろう。
ため息が白い息と共に漏れていた。

どのくらいツリーと向き合っていただろう。
ふっと、前にいる女の人の髪が、わたしの頬をかすめた。
ブロンドで柔らかそうな髪から、ほのかに優しい香りがする。
恋人に寄り添いながら、クリスマスツリーの灯りに照らされている。
しばらくして彼の耳元で何かを囁いた。
彼は笑いながら、彼女の髪を撫でる。
そして、恋人たちは微笑みながら、
わたしの横を通り過ぎていった。ツリーの灯りに負けない笑顔で。
その瞬間、一段と、ツリーの輝きが増したようだった。

2009年1月1日。日本。
何気なく付けていたTVから、
今年も世界中の人々を虜にする灯りの便りが届く。
ツリーの前にあるスケートリンクでは、
恋人たちや家族が手を繋ぎながら滑る映像が流れている。
なんだか胸が熱くなり、あの寒い夜に撮った写真をめくってみる。
そこには、ツリーの前で寄り添う恋人たちが写っている。
ブロンドの髪の彼女と、その彼女の髪を撫でる彼が。

聖なる灯りが輝く夜。
夜空へ続くあのツリーは、今宵もだれかの笑顔と共に輝いている。

(5年前にある新聞広告用に綴った物語より)
NYでのカウントダウンは、一生大切な想い出となっている。
今年もタイムズスクエアでは、たくさんの人々に紙吹雪が舞ったことだろう。
これから来る幸せな一年を祝福するかのように。