それとも、夜空から星たちが舞い降りたのだろうか。
聖なる灯りが、目の前でキラキラと輝き、
優しい微笑みをこちらへ向けている。
胸の鼓動が高まり、自然とわたしにも笑みがこぼれる。
それは、NYでのカウントダウンが近づいたある夜のこと。
NYの冬は、街の熱気とは裏腹にとても寒い。あの夜も例外ではなかった。
これ以上暖かくはできないだろう重装備で、街へ繰り出す。
目指すは、NYの心臓部である5番街。
この寒さの中街へ飛び出したのには、もちろん意味があった。
体を凍らせてでも、一度でいいから対面したかったのだ。
ロックフェラー・センターのクリスマスツリーと。
5番街は、昼間以上に多くの人で溢れかえっている。
ほとんどの人は、わたしと同じ目的で来ているのだろう。同じ方向へ向かう。
ふと、前方からほのかにざわめきが起こる。
歩いていた足を止め、顔を上げる。
その瞬間、寒くて震えていた体が止まった。
わたしの目の前に、ロックフェラーのクリスマスツリーが飛び込んできたのだ。
この街の、この日の主役は自分だと主張しているかのように、
堂々と構えるクリスマスツリーが。
人というのは、本当に感動すると周りがかすんでしまう。
このときも、周りは人で溢れて賑やかなはずなのに、その瞬間は約25mの
ツリーとわたししか存在していなかった。
ツリーしか目に入らなかった。
寒くてこわばっていた体の芯が、じんわりと溶けていく。
こんなに感動したのは、いつ以来だろう。
ため息が白い息と共に漏れていた。
どのくらいツリーと向き合っていただろう。
ふっと、前にいる女の人の髪が、わたしの頬をかすめた。
ブロンドで柔らかそうな髪から、ほのかに優しい香りがする。
恋人に寄り添いながら、クリスマスツリーの灯りに照らされている。
しばらくして彼の耳元で何かを囁いた。
彼は笑いながら、彼女の髪を撫でる。
そして、恋人たちは微笑みながら、
わたしの横を通り過ぎていった。ツリーの灯りに負けない笑顔で。
その瞬間、一段と、ツリーの輝きが増したようだった。
2009年1月1日。日本。
何気なく付けていたTVから、
今年も世界中の人々を虜にする灯りの便りが届く。
ツリーの前にあるスケートリンクでは、
恋人たちや家族が手を繋ぎながら滑る映像が流れている。
なんだか胸が熱くなり、あの寒い夜に撮った写真をめくってみる。
そこには、ツリーの前で寄り添う恋人たちが写っている。
ブロンドの髪の彼女と、その彼女の髪を撫でる彼が。
聖なる灯りが輝く夜。
夜空へ続くあのツリーは、今宵もだれかの笑顔と共に輝いている。
(5年前にある新聞広告用に綴った物語より)
NYでのカウントダウンは、一生大切な想い出となっている。
今年もタイムズスクエアでは、たくさんの人々に紙吹雪が舞ったことだろう。
これから来る幸せな一年を祝福するかのように。