恋愛は、たくさんのことを教えてくれる。
人に傷付き傷付かれることの残酷さ、自分の器の深さ、
苦しさ、優しさ、愛おしさ、誰かのためになりたいと願う心。
人間として、幾周りも成長させてくれる。
全員が、片想い。
それが、漫画ハチクロこと『ハチミツとクローバー』。
美大を舞台に、登場人物のほぼ全員が片想いという青春のひとコマ物語。
漫画を読みながら、本気で号泣させられること、しばしばだ。
子供みたいだけど天才的な絵画能力をもち芯の強いハグ。
キャンバスに一心不乱に向き合うハグを一目見て
恋に落ちたお人好しの竹本クン。
年上のリカさんに恋焦がれる男らしいけど情けない真山。
その真山にド直球の想いを抱く美脚の持ち主、山田さん。
破天荒だけどズバ抜けた才能を持ちハグと通じ合う在学8年生の森田。
その5人をそっと近くで見守るのがハグの親戚である花本先生。
大好きなあの人が自分を好きでないのならば、
せめてあの人の幸せを願いたいのに、
あの人が好きなヒトとうまくいなかいことを願ってしまう。
わたしの恋は、なんていやらしいんだろう。
美人の山田さんは、真山のことが好きで好きで、
想いも伝えたけれど真山はリカさんに夢中で、
片想いに苦しんで悲しんで、そんなことを思う。
この気持ちに共鳴したとき、胸がすっごく痛くなる。
そうだよね、みんながハッピーになりますようにと願っていても、
誰かを好きになることで誰かを傷つけてしまうことがあるんだとね、と。
どんなに泣いたとしても、胸が張り裂けそうになっても、
恋を残酷なものじゃなくて、
キラキラとしたかけがえのない大切なものなんだと、
作者の羽海野チカは教えてくれる。
恥ずかしいくらいの青春が、ホントに人を成長させてくれるんだってこと。
羽海野さんは登場人物を心から愛していて、温かく親のような目線で
見守って描いているのが、至るところで感じられる。
そして、人の感情がふと溢れ出す瞬間がとてもリアル。
恋愛だけじゃなく、たとえば将来を想ったとき、
ふとしたときに涙って勝手に流れたりするもの。
その絶妙なタイミングを描ける人は、人として信頼できるなと思う。
人の強さと弱さを知り尽くしている人。
漫画家でいえば、魚喃キリコや安野モヨコ、矢沢あいもそう。
(『天ない』で翠が夏期講習に通っているんだけど
馴染めなくて将来が不安で、
カラ元気に振る舞っているけど突然一人になった時に
シリアル食べながら涙出ちゃう感じは、すごーくリアル)
『ハチクロ』では、ダントツで森田が個人的には好きだけれど、
彼がハグにラストに見せた弱さは、ズルいけれどそれが人間らしさだと思う。
やっぱり人はひとりでは生きていけないし、身体と心の支えが必要だ。
どこか儚さがある人に、わたしは人間味を感じる。
本編のラスト、東北へと向かう竹本クンに、
ハグが手渡したサンドウィッチ。
あれに、恋愛と友情と青春のすべてが集約されているように思う。
大切な人のために、わたしができること―。
それが優しさとなったとき、心に温かさがじんわりと染みてくる。
『ハチクロ』の実写版映画は、とても良かった。
スピッツの歌もハマりにハマっていたし、
監督の愛情も溢れていた。
そしてなにより、キャスティングが
これ以上ないくらいにハマっていた。
森田役の伊勢谷くんなんて、
「も、もりたの生き写し…」とビビった。
(C)2006「ハチミツとクローバー」フィルム パートナーズ
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